団地の植生⑱トウネズミモチ
この団地にはトウネズミモチの木が何本も植えられている。
その多くは剪定のしすぎで哀れな姿になっている。
かろうじて生きている状態だから花も実もつけない。
残りの何本かは実をつけている。
トウネズミモチのトウとは唐のことで、日本のネズミモチに似ているからなのだが本来は女貞、いぬつばきという名前である。
ネズミモチは鼠の餅(犬とか狐など本物でないものに喩え)かとおもっていたが実は餅どころか苦くて食えない。
餅でなく、ねばねばのトリモチすなわち黐のことである。
そのモチノキに似ているからで、モチノキのよう赤い実ではなく黒い鼠の糞そっくりの実をつけるから鼠黐である。
トウネズミモチの実はそれよりずんぐりとして丸みがある。
じつは明治時代庭木として輸入されたこの木は本来のネズミモチの環境を犯す危惧があり国立環境研究所によって要注意外来生物に指定されている。
といってもすでに北海道を除きほとんど拡散されているのだが。
ヒヨドリはあの苦い実を好んで喰って種を糞としてまき散らすのである。
このトウネズミモチの樹皮は漢方薬の女貞で実は女貞子である。
中国のある尼さんが九十歳になっても髪が黒々としていて若々しいので訳を尋ねたら庭の木を指さしてあの実を取って蜂蜜をまぶして煎じて飲んでいるという・・・・
江戸時代の医者寺島良安は和漢三才図会に
実苦温補中安五臓養精神強陰明目黒髪除百病乃上品無毒妙薬也 葉微苦
除風散血消腫定痛諸悪創及口舌生腫脹者皆佳
と著している。
学術的に見てもトリテンペル、アントール、オレアノール酸、ウルソール酸などの脂肪酸が含まれていて利尿、緩下、強心などの効用がある。
老人の筋力低下や耳鳴り、視力低下などを防ぎ、白髪を防ぐというからすなわち若返りの妙薬なのである。
漢方では乾燥させた実10gを煎じて一日三回食間に服用・・・というのだが、
実100g氷砂糖100g焼酎700mlに漬けると三か月ほどで女貞酒が出来上がる。
話は長くなったが、私もこのごろ年のせいか目がかすんでしょぼつくものだから、なにも野鳥などに食わせることはないと、元来冬至の日に実を採る習いだが、少々早くいただいて女貞酒をこしらえたのである。
鼠の糞とは思えないガーネットのような深い赤色の薬酒が出来あがる。
でも苦いよ、若返りのためだ、多少の苦さは我慢しなきゃね。
牛鳴
トウネズミモチ
女貞